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福岡高等裁判所 昭和24年(う)744号 判決

被告人

多田忠恕

外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人多田忠恕、同森重之を各懲役八月、同小島猛雄を懲役四月に処する。

被告人多田忠恕より金貳万八千貳百拾円、被告人森重之より金壱万四千五百七十五円、被告人小島猛雄より金参千二百五拾円を各追徴する。

訴訟費用中原審証人金沢一臣、同勝田瀬一、同重見竹次、同戸川太、同佐藤信義に支給した分は被告人多田忠恕、同森重之の平等負担、原審証人阿南正利に支給した分は被告人森重之の負担、原審証人甲斐政一、同芦刈幸雄に支給した分は被告人小島猛雄の負担とする。

被告人多田忠恕が(一)昭和二十四年二月二十八日頃沖政五郎より現金五千円、(二)同年三月二十四日頃沖政五郎外二名より現金壱万円、(三)同月二十五日頃被告人小島猛雄より現金壱万円を収賄したという公訴事実については、同被告人はいづれも無罪

被告人小島猛雄が昭和二十四年三月二十五日頃、被告人多田忠恕に現金壱万円を贈賄したという公訴事実については、同被告人は無罪

理由

弁護人安藤晋の控訴趣意第二点の(3)、(4)について。

原判決認定の事実によれば、被告人多田忠恕は大分縣農地委員としてその職務に関し、

「一六」昭和二十四年二月二十八日頃大分市竹町のぜんざい屋において、沖政五郎より、大野町夏足原未墾地の買収除外の請託を受け、その報酬として金五千円を収賄し、

「一八」同年三月二十四日頃別府市児玉旅館において沖政五郎、安藤広教、平井勝基の三名より、右夏足原未墾地の買収除外の請託を受け、その報酬として金壱万円を収賄し、

「二一」同年三月二十五日頃右児玉旅館において相被告人小島猛雄より、三重町石場未墾地の買収除外の請託を受け、その報酬として金壱万円を収賄し、

たというのである。

ところで、自作農創設特別措置法の各規定を通観すれば、農地委員会が決定した農地、未墾地等の買収計画に対し法定の期間内に異議及び訴願の申立がなく買収計画が確定し、しかも当該土地所有者に対し買収令書は交付して買収手続が完了した場合において、該農地委員会がその買収計画を変更し、当該土地を買収計画より除外する決定をなすことは許されないものと解するのが相当である。従つて買収手続完了後かような買収除外の決定に関し、農地委員には何等の職務権限がないものといわなければならない。しかるに原審の取調べた沖政五郎、平井勝基外一名及び安藤広教外五十名の各陳情書、司法警察員作成の沖政五郎、平井勝基、重見竹次の供述記載によれば、前記夏足原未墾地については昭和二十三年十月頃、前記石場未墾地については同年九月七日頃、それぞれ大分縣農地委員会において買収計画を決定したが、法定の期間内に関係土地所有者より異議及び訴願の申立がなく、当時買収計画は確定し、買収令書も当該土地所有者に交付されて買収手続は前記各収賄前既に完了していたことが十分うかがわれるのであつて、これに反する事実を認むべき証拠はない。従つて買収手続完了後のこれら、未墾地について被告人多田忠恕が買収除外の請託を受けその報酬として金員を収受したとしても、当時同被告人はその買収除外に関し縣農地委員として何等の職務権限を有するものではないから、その賄賂は同被告人の職務に関するものとは認められない。しかるに原判決がこれを同被告人の職務に関するものと認定したのは事実の認定を誤つたものというの外はなく、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決はこの点においても破棄を免れない。そうして前記「一八」の犯罪事実については、右破棄の理由は贈賄者と認定された共同被告人小島猛雄にも共通であるから、原判決は同被告人のためにも、これを破棄しなければならない。

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